ヒラタクワガタの大型個体作出方法

概要

ヒラタクワガタ(本土ヒラタクワガタ)の大型個体の作出方法(ブリード方法,育て方)について解説します。オス70mm以上,メス40mm以上の個体をマット(発酵マット)飼育で羽化させるために必要なことについて解説します。

なお、ここでは温度管理をしない方法について解説します。ただし、1階の直射日光が入らない室温の変動が1日の中で大きくなく比較的涼しい場所を想定しています。また、ここに記述している内容(飼育方法)は、関西地方平野部を基準としています。飼育環境の違いや個体差などにより、下記の方法を行ったとしても大型個体が羽化しない場合もあるかと思いますが、当研究所ではその際の責任については負えません。

飼育環境

当研究所では、冷暖房を使用せず、1日の気温の変化が小さく直射日光が入らない1階の屋内で飼育を行っています。常温で飼育し、温度管理は行っておりません。幼虫の飼育には小麦粉(薄力粉)添加の自作発酵マットを使用しています。

当研究所の飼育場所の室温の目安(2015年9月~2020年8月の平均)は下のグラフとなります。室温は各月の上旬,中旬,下旬に測定し、それぞれ特別室温が高い、または低い日を除き平均的な日の室温を記録しています。、なお、当研究所においては、産卵が7月で羽化が翌年の6月~7月であるため、グラフの月は7月,8月,9月………5月,6月の順になっています。

ヒラタクワガタの幼虫の飼育場所の室温

産卵

縦17cm,横30cm,高さ21cm程度の飼育ケースに発酵マットを10~15cm程度入れて、交尾済みのメスのみをケースに入れて産卵させます。ヒラタクワガタは朽木がなくても産卵します。朽木は発酵マットに比べて栄養価が低いため、孵化後に朽木で育った幼虫は発酵マットで育った幼虫よりも成長が遅く、小型化する可能性もあり、大型個体を育てるには不利になる可能性があります。そのため、当研究所では朽木は使用していません。産卵方法の詳細については、ヒラタクワガタの繁殖産卵方法をお読みください。

産卵セットへのメスの投入は7月10日前後に行います。これより早いと温度管理をしない場合においてはメスが秋に羽化してしまい32mm程度の小型の成虫にしかなりません。幼虫期間が長いほうが大型個体を羽化させるには有利になるとされているため、この時期より遅すぎてもいけません。遅くても7月20日前後までには産卵セットに投入するようにします。交尾のためにオスとメスを1週間程度同居させる必要があるため、この時期に産卵させるためには、遅くても6月末~7月初頭には交尾をさせないといけません。なお、同居が終わればすぐに産卵セットに入れても問題はありません。

通常、産卵セットに入れるとその後数日以内に産卵し、産卵中はマットに潜ったままになります。産卵開始後から数日たてばマットの上に出てくるようになり、産卵が一時休止になります。そのため、産卵セットにメスを入れてから1週間程度でメスを取り出します。産卵が行われると、たいていの場合はケースの側面や底面に卵が見えます。卵が全くない場合は産卵していないか、産卵していても少数である可能性があります。

飼育方法

卵の孵化後、約2週間が経過し1令幼虫後期または2令幼虫初期になった段階で割り出しを行います。時期的には産卵セットに入れてから約1ヶ月後となります、7月10日前後に産卵セットにメスを入れた場合は、8月10日前後に割り出しを行います。

マットは栄養価の高い発酵マットを使う必要があります。また、マットの水分量も重要であると考えられます。ヒラタクワガタの幼虫はやや水分の多い環境を好むため、適したマットの水分量はマットを強く握った時にマットから少し水が出てきているように感じる程度である。水分が少なすぎると幼虫が大きく育たない可能性があります。逆に水分が多すぎるとマットの劣化が早まってマットの交換回数が増えるほか、最悪の場合は幼虫が死亡する場合もあります。なお、マットの水分を適量より多くしても適量の時と比較して幼虫は大きくならないようである。また、マットは新鮮なものを使用するようにします。産卵セットに使ったマットのように古いマットだと環境が悪いと感じ早く成虫になろうとするためか、特にメスの幼虫が秋にサナギになってしまい大きな成虫にならない場合があります。

割り出した幼虫は600~950cc(直径95mm)の瓶に入れて飼育を行います。瓶にマットをやや固めに詰めて幼虫を入れます。幼虫がマットの8~9割程度を食べた時点でマットの交換を行います。まだ食べられるマットが残っていて、交換するのがもったいないと感じるかもしれません。しかし、ここで交換しないと気付いた時にはマットを全て食い尽くしていて、本来マットを食べないといけない時期に食べることができずに幼虫が大きくならない可能性があります。マットを食べる時期にできるだけたくさん食べさせて大きくします。大型個体を羽化させるためには、大きな幼虫を育てる必要があります。なお、マットはリサイクルができますのでマットの8~9割程度を食べた時点でマットの交換を行うようにします。マットのリサイクルについては、マットのリサイクルをお読みください。

割り出した段階では幼虫のオス,メスを判別するのは難しいため、オスが600ccの瓶に入ってしまっても問題はありません。ただし、1回目のマット交換時にはほとんどの場合で3令幼虫になっておりオスとメスの判別ができるため、オスは950ccの瓶に移動させるようにします。サナギになる頃にマットを食べつくしたりマットが劣化していると、幼虫が暴れることにより体重が減少し、大きな成虫にならない可能性があります。そのため、サナギになる2~3ヶ月前の3~4月にはマットの食べ具合に関係なくマットの交換を行う方がよい。マット交換を行っても幼虫が暴れる場合があり、その場合は一通り暴れた時点(暴れた痕跡がマットのほぼ全体になった時点)でマット交換を行うと、その後サナギになることが多い。暴れたままマット交換をせずにほったらかしにしておくと、暴れることによって体重が軽くなるだけでなく、いつまでたってもサナギにならない場合もあり、そのままほったらかしにしておくメリットはありません。

マットの交換の目安は、950ccの瓶で飼育した場合、オスは10月中旬,3月中旬の2回または10月中旬,12月~1月,3月~4月の3回、メスは10月~11月と3~4月または12月~1月と3月~4月の2回となりますが、10月~12月または3月~4月の1回のみでも問題ない場合もあります。600ccの瓶で飼育した場合は、マットの量が少ないためオスは10月上旬には1回目のマット交換を行わないといけないかもしれません。以降は950ccで飼育するため、950ccで飼育した場合の時をマット交換の目安とします。なお、あくまで目安であるため、状況によって適切な時期にマット交換を行うようにしてください。なお、20g以上の個体は羽化する際には直径95mmの瓶では少し狭いため、最後のマット交換の際に直径110mm以上の瓶に交換します。

累代飼育

野外で採集した個体の場合などにおいては、大型になる素質を持った個体を引き当てる可能性は低いため、いきなり大型個体を作出することは難しいと考えられます。大きな個体の子は大きくなる可能性が高いため、繁殖させて育った中から大きなオスとメスを選んで累代飼育を行います。可能であれば、羽化した個体の中から複数のペアを作り、より大型の個体が羽化するなど成績の良いもののみを次の繁殖に使うという方法の方がよいようであるが、年間100匹近くの幼虫を飼育しなければなりません。そのため、多数を飼育できない場合は一番大きなオスと一番大きなメスをペアにして累代していくとよい。数が多くて時間的都合などによりしっかりとした管理(世話)ができないのであれば、大型個体を作出するのは不可能である。よって、少数の飼育でしっかりとした管理(世話)をするほうがよい。

西日本産のヒラタクワガタを7月10日前後に産卵させ幼虫を上記の方法で飼育すれば、余程のハズレ個体ではない限りF1でもオス63mm前後,メス37mm前後を作出することは可能であると思われます。ヒラタクワガタは羽化してすぐには繁殖できず、基本的に羽化した翌年に繁殖させるため、卵から羽化までの期間が1年の場合、繁殖の1サイクルは2年になります。累代飼育による大型化と飼育者の飼育技術の向上により、70mm程度に達するまでに1サイクル毎に2mm程度以上の大型化ができれば好成績と言ってもいいでしょう。ただし、現実的にはオス68mm,メス40mmの子の最大がオスで66mmであったりと、親より小型の個体しか育たない場合もあります。

その他

ヒラタクワガタの大型個体を作出するには、適切な時期に産卵をさせ、適切な時期にマットを交換し、マットの水分を適切にする必要があります。マット交換のタイミングやマットの水分量はある程度、感覚的なものがあるため慣れが必要である。これらをマスターできれば必然的に大きな個体が育つはずである。また、成虫が羽化したら1年を振り返ってみて反省点があれば改善し、次の飼育に生かすようにします。ここに記述した内容はあくまでも目安であるため、飼育の記録を取るなどして、自分が飼育している環境に最適な時期の見極めといったことも必要であると思われます。

関連項目