ヒラタクワガタ(本土ヒラタクワガタ)の繁殖方法(産卵方法)を解説します。繁殖のために必要なことや交尾時の注意点,産卵セットの組み方(作り方)を解説します。また、産卵後の管理と割り出し(幼虫の取り出し)の方法についても解説します。
産卵の前に、まずは交尾をさせないといけません。また、ヒラタクワガタは羽化してすぐには繁殖できません。羽化後最低4~6ヶ月が経過しなければ、繁殖はできません。理想は羽化してから一度越冬している個体となります。また、エサをたくさん食べているかも重要です。交尾させるには、羽化後6ヶ月以上が経過し、エサをたくさん食べている個体が理想的です。エサをあまり食べていない場合、栄養不足で産卵しない場合があります。
交尾の方法は、オスの飼育ケースにメスを入れます。オスとメスが必ず出会えるように小さめの飼育ケースを使います。この状態で1週間程度同居させます。一般的に、1週間たてば、交尾の確認ができなくても、交尾しているものと判断して問題ないようです。また、オスとメスの同居は長くても2週間までにします。期間が長すぎるとメスがオスに攻撃をされて死亡する場合があります。なお、オスの飼育ケースにメスを入れるときは、メスをオスから離れた場所に置くようにします。同居させてから何日か経過している場合でオスがメスを攻撃している場合は、速やかに別居させてください。交尾をさせる時期はヒラタクワガタの活動が活発になる6~8月が適しています。
産卵させる時期は、7月~8月中旬がよいが、常温飼育でも西日本の平野部であれば6月中旬以降や9月中旬までであれば産卵させることができます。これ以外の時期だと気温が低すぎて産卵しないかもしれません。なお、ヒラタクワガタは、気温が25℃程度以上ないと産卵しないようです。温度管理をしていない場合、産卵させる時期が早すぎると産卵した年の秋に羽化してしまい大きな成虫にならない場合があります。そのため、産卵時期は7月中旬頃にするのが良い。
なお、野外で採集したメス個体はすでに交尾済みの場合もあるため、交尾をさせなくても産卵する場合があります。
産卵用ケースは縦15cm,横25cm,高さ15cm以上のものを使います。普通のクヌギマット(幼虫用と書いてある昆虫マット)でも産卵するようですが、発酵マットの方が適しています。クヌギマットを使用している場合でマットに産卵しない場合は発酵マットに変えると産卵するかもしれません。また、マットは細かめの方がいいようです。マットは強く握ると手に水分を感じる程度に湿らせます。水分の多い環境を好むため、マットの水分が少なすぎにならないように湿らせます。
産卵セットを作る場合は、湿らせたマットを下から数cm程度、堅めに詰めます。このとき、飼育ケースを割らないように注意してください。さらにその上に10~15cm程度の湿らせた昆虫マットを軽く詰めます。最後にエサと直径数cmの木の棒と交尾済みのメスのみを入れます。マットが乾燥してくると、霧吹きなどで湿らせます。産卵はケース底面や側面付近のマット内で行われることが多いため、産卵していると数日~1週間後くらいには卵が見えるはずです。なお、ヒラタクワガタのメスは、幼虫が育つことができると判断した環境でしか産卵しないため、飼育ケースが狭い、マットの量が少ない、マットが乾燥気味だったりすると産卵しない場合があります。ただし、縦15cm程度、横15cm程度のケースにマットを5cm程度入れた狭いケースでも産卵する場合もあります。なお、マットが乾燥してきた場合は、霧吹きなどで湿らせます。
ヒラタクワガタの場合は、朽木(産卵木)はなくても産卵するため、朽木は不要です。なお、朽木を使用する場合は、飼育ケースの底から数cm程度まで湿らせた昆虫マットを堅く詰めて、その上に5cm程度の昆虫マットをやや硬めに詰めます。そこに朽木を置き、朽木の3分の2程度が埋まるまでクヌギマットを入れます。このとき、クヌギマットをやや硬めに詰めて、朽木が動かないようにします。朽木は直径7cm程度以上のものを使用します。よく朽ちていて、芯のないものが理想的です。爪を立てて力を入れると爪の跡が残る程度のものが適しています。朽木が細い場合や硬すぎるなど状態が良くない朽木の場合は、朽木に産卵しない場合があります。朽木はマットに埋める前に6~12時間程度水につけておき、よく水をしみこませます。その後、皮を剥いで皮と朽木の間にある粉の層も取り除いてからマットに埋めます。最後にエサと直径数cmの木の棒と交尾済みのメスのみを入れます。産卵セットにメスを入れる場合、産卵に集中できるように1匹だけを入れるようにします。しばらく日数が経過すると、朽木からカビが生えることが多いですが、特に問題はありません。カビを除去したりする必要もありません。マットや朽木が乾燥してくると、霧吹きなどで湿らせます。
産卵は、早ければ産卵用ケースに入れた次の日には行われている場合もありますが、産卵開始までに1週間程度かかる場合もあります。一般的に、産卵している間はマットに潜ったままでエサを食べないことが多く、エサを食べるようになれば産卵が一段落していることが多いため、このタイミングでメスを取り出します。夜間にエサを食べるためにマットの上に出てきたところを捕まえるとよい。メスを捕まえるために産卵用ケースのマットをひっくり返したりしてはいけません。メスを取り出す目安は、産卵を開始してから1週間後程度であるが、卵が複数確認できる状態で夜間にメスがマットの上に出てきて活動していれば元の飼育ケースに戻します。そのままメスを入れておくと、メスが卵や幼虫をつぶしたりしてしまう場合があるため、メスを取り除く必要があります。メスを取り除いた後も、マットなどが乾燥してきたら霧吹き等で湿らせます。
なお、当研究所ではブリード個体は交尾のために1週間程度オスとメスを同居させ、その後1週間程度産卵に備えてメスにエサを食べさせてから産卵セットに入れると、翌日か2日後には産卵しています。産卵開始から4~5日程度産卵を続け、その後は夜間にマットの上に出てきて活動をするため、このタイミングでメスを撤去しています。
幼虫が1令後期~2令初期まで成長した段階で割り出しを行います。気温が高い7月や8月では、卵は約2週間で孵化します。発酵マットを使用した場合は、1令幼虫の期間は約2週間のため、メスを取り除いて1ヶ月後くらいが割り出しの時期となります。なお、朽木を使っている場合、朽木は栄養価が高くないため、朽木の中にいる幼虫の成長速度が遅くなるため、1令幼虫の期間は3~4週間程度と思われます。よって、この場合は割り出しを少し遅めに行うようにします。9月に産卵させた場合、気温が低くなっているために孵化までに1ヶ月程度かかる場合があり、また成長が遅くなるため1令幼虫の期間も長くなります。そのため、メスと取り除いてから2ヶ月以上経過してから割り出す方がよい。産卵がうまくいっている場合は、ケースの底面を中心に幼虫が見えるはずです。そのため、幼虫がある程度成長したことを確認してから割り出すとよい。
朽木(産卵木)を使用せずマットのみの場合は、大きな入れ物に産卵用ケースをひっくり返して中にいる幼虫を取り出します。朽木(産卵木)を使用している場合は、マットの中にいる幼虫に加えて、朽木(産卵木)を割って中にいる幼虫を取り出します。朽木(産卵木)を割るときは、マイナスドライバーなどを使って中にいる幼虫をつぶさないように注意しながら取り出します。場合によっては朽木(産卵木)が非常に柔らかい状態になっていることがあり、その場合は手で簡単に割ることができるため、手で割るとよいかと思います。なお、ケースの角(隅)はマットが残りやすく、この中に幼虫が入っていることがあるため、マットを取るときは注意が必要である。そのまま指でマットを取ると幼虫をつぶしてしまう場合があるため、ケースを軽くたたきマットが自然にはがれおちるようにします。取り出した幼虫はマットを入れた瓶で1匹ずつ飼育します。詳細は、ヒラタクワガタの幼虫飼育方法をお読みください。
割り出し後はマットをケースに戻して保管しておきます。幼虫が小さかったりまだ卵だったりといった場合は見落としの可能性があるため、1~3ヶ月後にマットに幼虫がいないかの確認をします。朽木(産卵木)を使用した場合は、割った朽木(産卵木)をマットに埋めて保管しておき、1~3ヶ月後に再度幼虫がいないかどうかの確認を行います。これでも心配な人は、さらに1ヶ月後程度にもう1度確認するという方法もあります。